夢をのみ 日本SFの金字塔・光瀬龍

SF

 本書は本年度に私の読んだ書籍の内、ベストの1冊です。

 本書は、日本SFの黎明期から活躍した第一世代の作家・光瀬龍の素晴らしい評伝です。帯にもあるように光瀬夫人やご家族の全面協力の元、残された膨大な日記や創作メモ、著者の取材やインタビューを通じて、作家・光瀬龍の生涯を紐解いて行きます。

夢をのみ 日本SFの金字塔・光瀬龍

 資料的価値はもちろんですが、それ以上に光瀬龍に対する著者の深い敬愛の念やご家族の愛情が伝わって来ます。また、著者の巧妙な語り口で、その場、その場の情景が鮮明に脳裏に浮かんで来ます。

 大学を転々とした時は、入学金や授業料を取り戻していたとか、夫人との恋愛中の手紙では寂しがり屋の側面が観られる(夫人からの返信がまた絶妙なのです)話や、押井守との接点、女子高の生物教師(地学も教えていたとは初耳)時代の生徒との交流、夫や父親の顔等々貴重な話が満載です。

 故・福島正実氏が早川書房を去る事となった’69年の「覆面座談会事件」で著者は、「光瀬龍と眉村卓はとともに静観した」と残念ながら多くを語ってはいません。
 光瀬本人は、去って行く作家達や自分に対しても思う所が多分にあったのではないでしょうか。
 この年は、高校教師を退職し、専業作家へ転向し、執筆分野も広がったとあり変革の年でもあった様です。

 傑作であり代表作の『百億の昼と千億の夜』については、ページ数を掛け詳細に解説していただいています。特に単行本化時に削除された連載時のラストや数十年を経て改稿されたラストを同時に読めるのは貴重です。
 『百億の昼と千億の夜』は萩尾望都氏により漫画化されたのは有名ですし、その後、光瀬龍+萩尾望都として『宇宙叙事詩(上下)』も出版されています。

宇宙叙事詩ー早川書房版

 只今、TVでは、平昌五輪での男子スケートシングルで日本が金、銀のワンツーを取ったと大きく報道しています。
 光瀬龍は、その素晴らしい創作活動歴とは裏腹に星雲賞や文学賞とは生涯無縁でした。没後、第20回日本SF大賞特別賞が贈られていますが、正直、もっと評価されて然るべき作家だと思っています。「時の支配者・光瀬龍」としては時代が追いついていなかったのかもしれません。

 当時の日本SF界を「星新一が道を切り開き、小松左京がブルトーザーで整地して、その上を光瀬龍がエアカーで走り回る」と称した方(福島正実氏か?)が居たと何かの作品のあとがきで読んだ記憶があります。
 記憶が曖昧で出典も失念していているのですが、まさに言い得て妙です。

 本書あとがきによると著者は、光瀬龍に三度救われ、光瀬龍の世界に撃ち落とされたそうでです。まさにこの「撃ち落とされる」感覚分かるんです。

たそがれに還る

 私が初めて読んだ日本のSFは光瀬龍の『たそがれに還る』でした。当時、高校生の私は、正に「撃ち落とされ」それ以降、氏の作品はSFしか読まない不真面目光瀬ファンとなり、更に日本のSF作家にも目を向けるきっかけともなったのです。

 早いもので、来年(2019年)は没後20年を迎えます。絶版となった本も多く、これを期に復刻を願ってやみません。特にガンとの闘病中に執筆され、遺作となった『異本西遊記』も復刻を願う作品の一つです。


著者:立川ゆかり  出版社:ツーワンライフ  シリーズ名:-

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Posted by null-a